時代と言葉。

gris-bijoux2006-12-19

もう10年前ぐらいだろうか。木場の現代美術館で、その年に注目をされたアーティストたちの作品を集め、そこから共通項としてキュレーターがあるキーワードを引っ張り出し、それをその時代を象徴するテーマとして展覧会をするのがあって、そのときのワードは、



低温火傷



だった。


気付かぬぐらいに、その暖かさの陰に隠れてジワジワと侵されていくような、そして気付いたときにはどうしようもないダメージを受けている、というような空気、それが今私たちが生きている世界ではないか、ということなんだけど、それを見たとき、うまい言葉で言い当てたもんだなぁ、と思った。


私たちは徐々に徐々に世界は悪い方向に進んでいってしまっているような予感をもっていて、ただこのまま進んでいっても「バラ色の未来」が待っている、とはもはや誰も思って生きていない。


昨日、夕刊を読んでいたら、「勝者の言葉はかっこいいけど、どこかうつろ。」とあって、そうではない新しい言葉の地平を切り開こうとしている新進の詩人たちの記事が載っていた。


今世界が低温火傷を負い、確実に進行していることを気付き始めている私たちにとって、例えば「前進」とか「明るい未来」だとか元気いっぱいに発せられるそんな言葉は、もはやどこか虚しく、“うつろ”でしかないというのは、わかる気がする。


先日、ニュース23天野祐吉が今年の広告トップ10を選んでいて、たしか2位がカップヌードルの「FREEDOM」だったんだけど、なんでこれが2位なのか私にはさっぱりわからなかった。今さら大友克洋で、そして、自由を掴め、というスローガンがなんだかさっぱり今の時代に間が抜けているように思えて仕方なかったのだけど、この全く刺さってこないかんじはそういうことなんだと思う。


そうした言葉の“うつろさ”に敏感な人たちが、違うベクトルで見つけ出した言葉は最近だと「美しい」という少しスタティックな形容詞なんだと思う。


資生堂が「一瞬も、一生も美しく。」とコーポレートメッセージを掲げ、それを受けてかTSUBAKIが「日本の女性は、美しい。」とコピーを作り、安倍さんも「美しい日本へ」とか本出して、最近ではアクオスが「美しい日本の液晶」とか言い出した。でも、最近はあんまり氾濫している気がしていて、なんだか安っぽい言葉にはなってきてしまったけどね。



新しい尺度。



時代が求めているのはきっと、確かにそれなんだなぁ、と思いながら、トヨタカローラのCMを渋谷の交差点のヴィジョンでぼんやりと眺めていました。


バラ色の未来が待つ世界じゃないかもしれないけど、それでも私たちや、そして子どもたちが、それぞれに希望を紡いでいける新たな年がやってきますように。



写真はKira Bellaのアクアマリンのピアス。¥12800